松山市の、坊ちゃん文学賞(ショートショート)に応募したときの作品です。
残念ながら入賞には至らなかったです。
この作品はショートショートですが、自己紹介の作品でもあるのです。
登場する女性は四桁数字を見ると物語が見える。というものです。
正しくは頭の中に画像が浮かび、それを放置していると画像が勝手に動き出し
頭に浮かんだ人物が物語を作り始めるのです。
たとえば、小学生くらいの男の子が頭の中に浮かびます。
翌日まで放置すると、「学校の友達を連れてきたよ」って
登場人物が増えていきます。
実は、これは作品を書いている私のことなのです。

職場の先輩が運転するクルマの助手席に雅子は座っていた。
仕事の話をしながらと言いたいところだが、40代の男性社員の吉永は、仕事には熱心ではなかった。
それでも吉永は職場をまとめる課長なのだ。吉永は隙あらば若い事務の雅子と二人きりになれないかといつも考えていた。
「ねえ、雅子ちゃんって彼氏いないんだって」
吉永さんはニヤニヤ笑いながらセクハラに近いことを私に聞いてきた。
「その質問はセクハラですよ、若い女子にそんなこと聞いてはダメですよ」って笑いながら応えた。
雅子は話をそらすように前から来る対向車のナンバーを見て思わず大声で笑った。
吉永さんは、とつぜん笑いだしたことを不思議に思って
「なにがそんなに可笑しいの、知っている人でも乗っていたのかい」
仕事中だしこれから大事な商談に行くクルマの中で笑い出した私に少し不愉快そうにそう尋ねた。
「だって課長、さっきのクルマって可笑しくないですか」
「なにがそんなに可笑しいのか分からない、なにが?」
「さっきのクルマのナンバーって、川上から流れてきた桃を割ったら中から小さな熊が出てくるんですよ」
運転していた吉永は雅子の方に顔を向けた。
次にすれ違ったクルマのナンバーを見て
「あのクルマは3173だって可笑しいね」
「ナンバーを見て可笑しいねって、なにがそんなに可笑しいんだよ」
吉永は私が一人で面白がっていることに苛立っているようだった。
「3173って数字はフォークリフトで持ち上げた雪だるまがフォークの間から落っこちるところですよ」
運転中なので雅子の顔をじっくり見るわけにもいかず、吉永は突然の雅子の発言にどう対応したらいいのか分からなかった。雅子は25歳で恋人がいるような噂はまったく聞こえてこない。
吉永は雅子に対し興味津々だったのだ。
吉永は「へえ、雅子ちゃんにはそんなふうに見えるんだ、凄いじゃん、っていうかあり得ないし」
子供を相手にするように凄いねと言いながら全く凄いなんてことは思っていなかった。
「吉永さんには見えないんですか」
雅子にとっては子供の頃からあった能力だったから普通のことだと思っていた。誰もが数字を見ると頭の中に景色が現れたり、そこに人や動物が現れたらいつの間にか動き出し、物語が始まったりするのかと思っていた。私には四桁の数字を見ると物語が見えてしまうという症状?いや能力?があるのだ。
さすがに大人になった今では、自分だけが持っている能力だと理解しているけど、もしかしたら自分と同じ人も居るのかなって、唐突に能力を発揮して相手を試すことがあった。
「雅子ちゃん、じゃあ」と指を差し
「あのクルマのナンバーはなにが見えるの」
「あのクルマ?6830だからエプロンを着けた太ったおばさんが買い物かごを持っているよ」
「次のは2129は海から飛び上がったトビウオがスッと形を変えて折りたたみのナイフになってる。目だけがまん丸でギョロッとこっちを見ている」
吉永は最初はニヤニヤしながら聞いていたけど、雅子の真面目な顔で言葉にする景色とその映像の不思議さに驚いていた。
雅子が答えを言うまで、少しの時間のずれもなく即座に答えることに驚いた。
次の朝、雅子はオフィスの机に座っていた。後ろからポンポンと吉永に肩をたたかれた。ちょうどその時間は吉永と雅子しかいなくて、肩を叩かなくても声を掛けてくれればいいのに、女子の身体に気安く触るなってことなんだけど、吉永はいつものようにニヤニヤした笑顔で話しかけてきた。
「雅子ちゃん、昨日の話の続きをしようよ」
昨日の話とは私の特別でありながら、全く役に立たない能力のことだ。私の話を聞いても面白くないのに、それに興味もないでしょうに、こちらから進んで話をするようなことでもない。私が子供の頃から高校を卒業するまで何人かの友達に話してきたけど
「そんなことあるわけないじゃん」で興味を持って聞いてくれる友達はいなかった。
この時間は仕事中で同僚たちは営業に出かけていった。吉永は出かけるような雰囲気を出しながら外出の準備をわざとゆっくりとやっていた。
吉永は私に話しかけるチャンスを見計らっていたのだ。座っている私の横に来て「俺の誕生日は8月16日なんだ。だから0816って四桁数字になるけど、なにが見えるのかなあ」
「0816だと、よく晴れたスキー場のゲレンデの下の方にある、ちょっと高級そうな三階建ての建物があって、入り口の前には万国旗が立っている。雪で日に焼けた欧州系の美人が白い帽子とスキーウェアを着ているよ」
吉永は雅子の異様性を認め、この能力をどうにかしてみたいと考えた。もっとよく調べてみよう。吉永は図書館へ行ったりネットで同じような能力があるかを調べていた。
「雅子さん、この能力って、あれだよ、共感覚ってやつかもね」
雅子も「あたしもそう思うの。共感覚って数字に色が付いて見えるとか、音楽を聴いていると臭いがするとか、そういうのでしょ。テレビで観たことある」だから四桁数字を見たら景色が見えるのもあるのかなって。それだけじゃなくて、そのうちその景色が動き始める。
「長いこと放っておくと、登場している人物が友達を連れてきたりして物語になるの」誰しもが超能力や特別な能力に憧れたりするけど、雅子は自分の能力は邪魔かな、無くてもいいやって思う。本当に役に立たないものだった。だが悪いことばかりではなかった。ある日、9341って数字を頭に浮かべていたら女子高生が現れ、文学部の部活動風景が見えた。そのうち文学部の部員が4人に増え、大学を卒業したばかりの美人教師が文学部の顧問をしていた。こんな物語が1年半も続いて幻覚にも似た景色が物語へと育っていた。雅子はあまりに文学的な物語だったので女子高生にユキちゃんと名前をつけ、ユキが書く体のブログを開設したこともあった。とても楽しい思い出だった。いつもこの能力を利用して何かできないかなと考えていたし、誰かにそのことを分かってもらいたいと思っていたが、現実と頭の中の物語の二つの人生を歩むわけにもいかず、頭の中の文学部の活動は主人公の卒業で無理やり幕を閉じたのである。
後半へと続く
世の中には変わった能力をもっている人がいる物ですね。
これは私の能力のことでも有ります。
作中に書いたとおり、生活には役に立ちませんね!あはは
