中途採用で入職した私に怖い話を仕掛けて止めさせようとして、返り討ちにした話




怖い話

この場所が昔墓地だったなんて聞いたことが無い。昨年の秋に再就職が決まった。
私が引っ越してきた街にある工場でのことだ。

この工場に5年間勤めている先輩社員が、いつもより声をひそめて言う。

「内海さん知ってるかい、この工場には夜になると出るらしい。
内海さんは他の土地から来たから知らないと思うけど」

私は内海という名前だ。この地域ではあまり聞かない名字らしい。

「そうなんですか、俺はそんなのは怖くないので、お気遣いなく」

今年で57歳になる。夜の工場に幽霊が出るという噂はどこの工場にもあるし、
そのような怪談話を聞いたところで全く怖くはない。
この工場は三交代勤務のシフトになっていて、夜中の0時スタートのシフトがある。
この時間帯は工場を管理する課長も出勤してこないので、
わりとゆっくりとした空気が流れていて、昼間のように仕事をせかされることもない。
なので暇なときにこんな話をして新しく入ってくる社員を怖がらせるのを楽しみにしているだけのことだ。

ただ、工場内の作業所から出てトイレへ行く通路は、灯りを暗く設定しているので、暗くて怖いことはある。

先輩社員の吉田さんは私よりも20歳も若い。
仕事はどれほどできるのかはわからないけど、いつもつまらない話をしてくる。

「幽霊ですか、まあそんなこともあるでしょうね、私も何度も見てきましたよ、いろいろな工場で」

この際、吉田さんの話に乗ることにした。どうせ夜勤は暇だし。

そしてある夜勤のとき、出社してきた私は作業所に向かう通路で吉田さんとすれ違った。

「あれ、子供が……吉田さんの子かな」

そのときはそう思っても何も言わなかった。
仕事が始まり、2時間ほど過ぎて私はトイレへと向かった。
暗い通路の向こう側から吉田さんがこちらに向かって歩いてくる姿を見て、
やっぱり二人の子供が吉田さんの後ろをついてくる。

こんな夜遅くにおかしいと思い、さすがに吉田さんに声を掛けた。

「どちらのお子さんですか」

声を掛けたそのとき、子供の姿は消えていた。
私に声を掛けられた吉田さんはびっくりしたような顔になり、

「やだなぁ、子供なんて」

そう言って青ざめた。吉田さんの顔はみるみる白くなり、血の気を失っていくのがわかる。

「え、もしかして吉田さんの言ってた幽霊って……」

深夜2時に子供がいるわけがない。でも見た。

私はその場にとどまり、しばらく目を閉じて暗い何も見えないまぶたの裏に映像を浮かび上がらせた。

私には霊感なんて能力はないけれど、幽霊というか、生きている人、死んでいる人の想いが映像のように見える。
それが霊感というなら、そうかもしれないと思うこともあったが、
他の人も普通に持っている能力だとずっと思っていた。

目で物を見たり、耳で音を聞いたり、まぶたの裏に人の想いが映ったり。

どうやらこの能力は普通のことではないと気づいたのは、ごく最近のことだった。

まぶたの裏に映る映像は、この土地がまだ野原だった頃、近くに住む子供たちの姿。
そしてこの子たちは戦時中の食糧難で、些細な風邪で命を落としたこと。
そういうことがまぶたの裏にはっきりと映し出されたのだ。

恨みを持って死んだのではない、この土地にあった野原で遊んでいる子供たちは楽しそうでもある。

吉田さんは私に聞いてくる。

「内海さん、何か見えるんですか? 幽霊を見たって本当だったの」

自分だって幽霊が出るって言っていたではないかと言いたかったけれど、
嘘を言っていたことはわかりきったことだ。

夜勤が終わったところで吉田さんを会社の門のところで待ち伏せて、
昨夜の話の続きをしようと思った。彼は少し遅れて門のところまで来た。

「内海さん」と私に声を掛けてきたが、その続きが出てこない。
言いたいことは分かっているのでこちらから話を始めた。

「見えましたよ、確かに。吉田さんは子供に好かれているんでしょうね」

そう話した途端に彼は走り出し、逃げてしまった。

俺を怖がらせようとした幽霊話を持ち出し、自滅してしまったのだ。
俺を辞めさせたくてそんなことをしてもムダなのを思い知らせてやる。

今日の夜勤が楽しみになった。



 怖い話しでした。
地方都市で地元では有名な工場でした。

やはりそこは昔お墓があったそうです。
幽霊が出るとは思わなかったし
怖くも無かった。先輩社員の余りにも稚拙な話が笑えたので
仕返しのつもりで「幽霊がいましたよね、ほらあそこに」
見たいな話をし続け、先輩を恐怖に陥れたことがありました。

投稿者 r65life

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