
タイトル:憎からず思う 可愛いのか憎たらしいのか、そんな女の子の物語です。
憎からず思う
好感を抱いている
おばちゃん、「300円のお好み焼きいくらや?」
「そんなもん300円にきまっとるやないか。」
そりゃたてまえではそうやけど、あたしとおばちゃんの間柄やで、他の人とはちゃうんや。
そやから聞いとるんやで、100円でええかぁ。
この界隈では知らない者はいないチビ子。
からだが小さいからチビ子と呼ばれている。
「このガキ、どこの子や?」
ひどい言われ方をするのも、みんなから可愛がられている証拠だ。
お好み焼き屋さんの名前は「大阪屋」だ。
商店街の端の方にあるチビ子の家からだと、商店街の入り口付近のところだ。
だからチビ子はこの町に越してきた当初から、大坂屋がお気に入りになった。
店主のおばちゃんはチビ子のお婆ちゃんくらいの歳だ。
でもお婆ちゃんに比べると元気が良く、笑い方も手を叩きながら大げさに笑う、大阪のお婆ちゃんって感じがした。
本当に嫌いな子は誰も相手にしない。
チビ子は体は小さいが、態度はデカい。口も悪くて手が付けられない。
髪の毛は後ろできっちり縛っていて、いつも上目遣いで大人を見上げる。
誰かが怒鳴った。「おまえアホか、母ちゃん連れてこいや。」
ある日、チビ子はほんまに母ちゃんを連れてきよった。
「うちの子がいつもご迷惑かけて申し訳ございません。」
なんや、申し訳ございませんって、チビ子、おまえは東京のもんか?
「そや、あたいは東京もんや、どうや?あたいの母ちゃんべっぴんさんやろ。」
小学校に入る頃に越してきてもう3年や。もう一人前の関西人やで。
「アホか、ほんまもんの関西人が自分で関西人って言うわけないやろ。」
「じゃあなんて言うんや?」
「こうや、私は大阪のご婦人でございます、どうぞよろしゅうに。」
「なにいうてんねん、となりのおばちゃんはそんなこと言わへんよ、ほな、そこのアイスもらっていくで。」
チビ子の後ろ姿を見送るおばちゃん。
「ほんまキャンキャン騒ぐ子犬みたいな子や。」
「ほんとうにあの子ったら。」
そう言いながらお店のおかみさんにアイスクリームのお金を払いながら話を続けた。
「あの子はね、いつもは関西弁を話すことはないんです。
この商店街に買い物に来るときだけあんな風に話をするんです。」
うちに帰って来ると、「あの大坂屋のおばちゃんがあたしの大阪弁の先生よ、
なんかテレビの人みたいで話をすると面白いんだ。」
そんなことを話してくれたんです。
大坂屋のおばちゃんは、
「なんやあ、でも東京もんにしては喋りが上手いで。
大阪で暮らしていくにはあれくらいじゃないとやっていかれへんわぁ。」
チビ子のお母さんは丁寧に挨拶をして商店街を後にした。
その年の8月最後の日曜日にチビ子たち一家が商店街に買い物に来た。
大坂屋が近くなると、チビ子はお父さんとつないでいた手を振りほどいて走って大坂屋へ向かった。
「おばちゃ~ん、居るんかあ!」
チビ子が来たでえ、大声で叫んだ。
「なんやこの子は大声出さんでも聞こえてるわ。」
「なあおばちゃん、今日はお父ちゃんも一緒や。」
チビ子はお父さんに手を振りながら、早く早くこっちこっちとお父さんを呼んでいた。
チビ子一家が勢揃いしている。
夏の終わりの夕方、西日が差してまだ暑い。
書店街は暑いからといって打ち水をしても、さして涼しくも無い。
埃っぽくぬるい風が吹いていた。
西に傾いた陽を浴びて、チビ子たちの顔は赤くテカっていた。
地面に濃く落とした影はひとつの塊になっている。
チビ子はお父さんとお母さんの間に立っていた。
「なあおばちゃん、あたしらみんなで東京へ行くんやで。」
「そりゃ良かったじゃない、ディズニーランドでも行くんか?」
「そやないよ、あたしらずっと東京へ行くん。」
そう言ったとたんにチビ子は泣き出した。
「なに泣いとるん?」
チビ子はお母さんの後ろに隠れて、そのまま黙ってしまった。
お父さんはその様子を見て・・・・・・
「あのチビ子が大きくなったな」と
しみじみと見つめるのだった。

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可愛い女の子の物語です。
おてんばというより大人っぽい物言いが可愛らしく思えることもありますね。
大阪弁をムリして喋っているのは微笑ましいです。
こんな短い文章は気軽に書けて楽しいです。