小野田部長の卒業式からひと月が過ぎたが、ユキと陽子はその日から口をきいていない。
小野田部長とゼン君のキスはユキが仕掛けたものだと陽子は疑っていた。
あのおとなしいゼン君が自分からキスをするなんて考えられなかった。
一瞬だけ振り向いてキスの現場を見てしまったナオはキャーと声を出してしまったので陽子になにあったのと問い詰めらっれていた。その状況を詳らかにしてしまったのは先輩からの圧力もあるので仕方の無いことだったが、ゼン君と小野田部長がお互いに腕を相手の身体に巻き付けキツく抱き合いながらのキス。しかも舌を絡めてのキスは高校一年生のナオには強烈にショックを与えてしまった。

「ゼン先輩、あたしどうしよう」
ナオは生のキスの現場を見てしまったことを後ろめたく思っていた。

 ユキはニヤリと笑いながらA4の紙をひらひらさせながら部室に入ってきた。
部室にはナオしか居なかったが
「陽子ちゃんはいないの?良かった。ナオちゃんに話があるの」と言って、持って来た紙を机に置き、ナオに椅子に座るように促した。

「これから大事な話があるの、後でこの紙を陽子ちゃんにも渡すけどナオちゃんにも協力して貰いたいの。もしダメならダメって言って貰っても良いからね。ナオちゃんはまだ子供だし」

子供扱いされたことにナオはムッとしたけど、
何の抵抗もなく話し始めたユキの言葉に気を失うほど驚いた。
「はい、これ読んで、チームロストバージン計画」
ロストバージンって処女喪失ってことね。

メンバーは
 鮫島ユキ 長瀬陽子 犀川奈緒 (小野田恵美)松平喜信(男)
企画内容
  新しい年度になりました。春の頃もあっという間に過ぎ
 初夏の暑さが身にしみるには、あと一ヶ月くらい先かと思います(W)。
 このたびこの企画のリーダーである私ユキが皆様に大事なお知らせがあります。
 
 本題に入ります
 文芸部部員さん、女子メンバーはこの際だから処○喪失を経験しませんか。
 初体験の相手は我らがメンバーの〇〇君、ここで名前を書かないのは
 もしもの時のためです。
 この情報が外に漏れることは無いと思いますが、そのときは全員退学と
 覚悟して下さい。では、皆でセ○〇スを楽しみましょう。

 ユキは今朝になって、こんなくだらない企画書を書き上げ、事に及ぶのであったが、
くだらない感じが、深刻でも無く気楽な感じがして、あははって笑って済まして
しまいましょう的なところがユキちゃんらしい。

 これからね話するけど、
あたしとナオちゃんもだけど、陽子ちゃんと小野田先輩にも参加して貰おうと思うの。
それでね、この際だからみんなでバージンを捨てちゃおうって話!
あっけらかんとしたユキの話に目をパチクリさせていたが話はこうだ。
 ユキはまるで教壇に立つ教師のように話し始めた。
「ナオちゃん、紙を見てタイトルはチームロストバージン」
さっきも言ったとおり、みんなで処女喪失っていうか、
みんなで初めてのセックスをしちゃおうってこと。

「ユキ先輩、えーとエッチするってことでしょ」
「そうよ、こういうことってひとつの言葉に驚いたり恥ずかしがったりしていたら話が進まないのね、だから絶対に恥ずかしがっちゃダメなの、セックスをするの」
ユキはナオに諭すように言う。
このチームのメンバーは私と陽子ちゃんとナオちゃんの三人と
括弧で小野田先輩の名前も書いてあるわ。
ゼン君の名前もあるけど、私たちがゼン君と初めてのセックスをするってことだからそれでいいの。

小野田先輩は東京に住んでるから参加は難しいけどね、
事情を話せば絶対に参加しますって言うに決まっているよ。
でも連絡したときにバージンじゃなかったらメンバーから外すね。

小野田先輩っておとなしい顔してるけど、大胆だよね。
だってこの前のキスだってそうだったし。先生だっていたんだから。

ナオは写真撮影会の後のキスは、やっぱりユキ先輩の企みだったんだと悟った。
「セックスするって本気ですか、ゼン先輩だって都合があるんじゃないの」
「あはは、実はね、ゼン君には昨日話してあるの、そしたらいいよだって」
だから後は私たち女の子の気持ち次第ってことよ
ユキは言葉では簡単にして済ませてしまうけれど、
昨日の午後にゼン君とこの件について話をしたときは、
いたって真面目な雰囲気で、ゼンと向き合っても恥ずかしがらずに話をした。

 女の子って男の子とエッチしてもその人と結婚するとは思ってないわ。
   “さすがに男の子に向かってセックスするとは言えなかった。”
私も陽子ちゃんもだけど他の子もみんなゼン君のことが好きなんだって。

初体験の男性は誰が良いかなって聞けばたぶんみんな
「最初の男の子はゼン君が良い」って言うわ。

だから、どうかしら私たちとそういうことしない?
ゼンは押し黙って考える。ゼンは頭の良い子だから言いたいこと全てを口にしないけど
結論だけポロッと口からでるのだ。
「いいよボクで良ければ」
「そう言うと思ってた、詳しいことは後で話す。他の子にも伝えないとね」
「兄貴がゴールデンウイークに旅行に行くからアパートを自由に使えるから、そこでも良いかな」
「うんわかった」
ユキはその場で立ち上がったのだが、ニヤニヤが止まらない。
あたしも高三で処女喪失って嬉しすぎる。

 ゼンは短い時間で考えていた。
どうせみんな一番好きな人とは違う男性とエッチするんだろうな。
ユキちゃんはそう言わなかったけど。
ボクのことが好きならそういうことしてもいいだろう。
結婚する男性は大人になったらそれぞれ探すんだろうな。
そしてゼンは一つの条件をだした。とても他の子には言えないことだったけれど
ユキの耳に口を寄せて、コソコソっと耳打ちした。
部屋を出るタイミングで
「やっぱりそうだったんだね、私に任せといてバッチリだから」
 明日みんなに話すからゼン君は部活を欠席してね。
もしかしたら女の子同士で盛り上がっちゃうかもだから。
昨日のうちにこんな事を話していたのだ。
しっかりと事前の交渉の出来る営業マンのようだ。

 ユキはナオに一通り話をしたところで陽子が遅れてやってきた。

 部室の中を見回しゼン君の居ないことを確かめて入ってきた。
私と目が合わないようにしながら部屋の中に進み
パソコンの置いてある机に座って大きなため息をついた。

「陽子ちゃん怒ってるの、言い訳はしないわ」
「怒ってなんかないわよ」と言いながらもユキの顔を見ようとしない。
ユキは陽子がゼン君のことが好きなことは解っていた。
それなのに卒業式の日に写真撮影の後にみんなで順番に小野田先輩とハグをするから、
ゼン君には男の子だからたぶん一番後に順番か回ってくるから小野田部長をギュッと抱きしめて
あげてね、とお願いしたのである。まさかキスをするとは思っていなかったけど。
後でゼン君にきいたらハグして頬がピッタリ触れあったら、ドキドキしてしまって、
あの時なにを言ってしまったのか気がついてなかったらしい。
あの状態で「キスしよっか」って言ってしまったのは、
まるで恋人同士の感じがして、そう言わないと小野田先輩に申し訳ないと思ったかららしかった。
ユキはゼン君の気持ちを陽子に伝えたら陽子は笑いだし、あの子らしいわ。
でもね私だってキスしたかったし、次の日の朝にゼン君と部室で会って
「先輩としたんだから私とキスしてくれてもいいんじゃない」って言ったら
「そんなことしたらユキちゃんやナオちゃんに嫌われてしまうかも知れないじゃん。これから一年間も一緒に部活やるんだからゴメンって、見事にフラれてしまったの」
陽子もゼンが自分からあんな事をするとは思っていない、これはユキが仕掛けたんだろうと思っていたが今日になって始めてその顛末がはっきりと解った。ユキを許すわけでは無いけど、仲良くしてたらそのうちあたしにも良いこと(たとえばゼン君とキスとか)があるだろうって気持ちで、傷つきやすい乙女の心が一瞬で元に戻ったのである。

左の作家さんは私の好きな作家さんです。

登場する人全てが魅力的です。

 陽子の言葉に笑っては悪いと思い、ふんふんと頷くだけだった。
「陽子ちゃんそれでね、いまナオちゃんとも話をしてたんだけどこれを見て」
チームロストバージンと書かれた紙を渡した。
 さっと読み陽子は頬を赤く染めていた。
「ゼン君は本当にこれで良いって言ってたの」
「うん」
「キスよりエッチが先って信じらんないけど、キスも一緒にってことか」
陽子はキスもしたことがない相手とセックスなんて出来るわけないじゃんって思ったけど
少しの時間差でたぶんキスが先だよねって気がついたのだ。
他の子がゼン君とキスしたりエッチしたりするのは許せないんだけど
「でも、あんた達もゼン君が好きで、たぶんあたしと同じ事を考えているんでしょ」
そんなことわかってるわよ。と言わんばかりに一気に語った。
文芸部内の友情が崩れない為に考えたユキのアイデアなのだろう。
これも先日のゼンと小野田のキスがあったからこうなったのだろう。

陽子とナオがユキの方に向きなおして真剣に次の言葉を待った。
「ゼン君のお兄さんが静岡で一人暮らししてるの知ってるでしょ」
 ゼンの兄は静岡の大学に通っていた。自宅は富士駅の近くだから通えないこともないのだけど、勉強に費やす時間のために通学に無駄な時間をかけたくなくて大学近くのアパートに住んでいるのだ。
「ゴールデンウイークにね、お兄さんは友達と沖縄の旅行に行くんだって、五日間くらいかな、だからその間は部屋を自由に使ってもいいらしいの、だからお兄さんが居ない間にアパートの部屋を借りてそこでロストバージンってわけ」

なんだか現実味が沸いてきたのか陽子もナオも黙り込み
頭の中でぐるぐると考え事をしているようだった。
「三人一緒にってこと」
「まさか、一人ずつに決まってるでしょ。それに幾つか決まりごとを決めて、大変なことにならないようにね」
「それって人に知られないように他言無用とか、ネットで喋らないとかだよね」
「それもあるけどコンドームを付けるとか、オチンの挿入前に指を入れないとか」
とても男性経験の無い女子高生とは思えない発言に
「ユキ先輩、大胆発言止めて、あたしついてゆけないよ」
「そうねでも大事なことだから、もっと大事な決まりごとは絶対に恥ずかしがらないこと」

恥ずかしがってたら、したいことや、やって欲しいことが出来なかったり
中途半端で終わってしまったら折角のロストバージン計画が半端なものになっちゃうじゃない。
 ユキは二人を前に堂々と演説をかましたのである。
陽子は気になってるのか直ぐさま口を開いた
「それで、順番はどうするの」
「それねえ、トップでやるのがいいと思ってるでしょ」
二人はこくりと頷いた。
「それは考え違いね、最初って誰でも緊張するからゼン君だって上手く出来ないこともあるじゃない、もし三番目だったら既に経験済みで落ち着いてゆっくりとセックスが出来るかもよ」
 えーイヤらしいってナオは顔を歪めユキをまじまじで見つめた。
だからトップがいいってわけじゃないの。解った。

二人は顔を見合わせながら、口数は少ないが心の中ではキャーキャー言いながら
もっとユキの話を聞きたいと思っている。
順番が決まらなかったらくじ引きでもジャンケンでもいいわよ、どうする。
少しの沈黙があったからすかさず
「じゃあナオちゃんが一番ね、陽子ちゃんでもいいよ、イヤなら私が一番」
「やだー、だって他の人が、後からあんなの冗談に決まってるじゃんって逃げちゃったら、あたし学校に来れなくなっちゃう、最後でいいよ」
「ナオちゃんだけ一つ若いからそう思うのも仕方ないわね、陽子ちゃんはどう」
「ゴメン、ユキちゃん信用しないわけじゃないのよ。緊張で倒れちゃうかも」
そんな感じでユキが最初のロストバージンに選ばれた。二番目は陽子、ナオは最後になった。

 四月二九日快晴の休日
ゴールデンウイークの始まりの日だ。
ユキは家のある富士駅から東海道線にのって静岡駅へ向かった。
お洒落なミニスカートを気にして恥ずかしげに裾を伸ばした。
静岡駅のトイレに入り履いていた黒いストッキングの脱ぎ
透き通るような生脚を露わにした。
改札の外でゼンがユキの姿を見つけた。

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この物語はまだ続きます。
全編にわたりフィクションです。

投稿者 r65life

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